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  匠を訪ねるスペシャルの二人目は、摺師 松崎啓三郎氏。東海道五十三次で知られる浮世絵師 歌川広重などその他多数、近代絵画もオリジナルに忠実に摺り上げ、千社札、千代紙など幅広く手がける匠である。機械のない時代から人の手で摺り、複製されてきた言わば「印刷の原点」である摺師の仕事について伺ってみた。

機械では再現できない「手」の仕事。

―絵にもよると思いますが、一枚の絵で何回くらい摺るんですか?
「今摺っている絵は、合計で36回摺ります。色別に、輪郭から細部まで、36工程分版木が分かれていてます。版を何度も重ねて摺るには、見当をつけて位置を合わせてるんだ。それだけのことなんだけど、これが至難の技なんだよ。板がきしんでたり縮んだりするから、摺師じゃなきゃ合わせられないね。
年月が経って収縮した木は濡らして調整する。版木を濡らして、ビニールに入れておく。昔はビニールの袋がなかったから、風呂の中に重しをしてつけておいたものです。そうやってよく伸ばしてから作業に取りかかるんだよ。」

―作業部屋にはたくさんの版木がありますが、この版は松崎さんの版なんですか?
「問屋さんの版なんだよ。版元という問屋があって、そこから借りています。版画が仕上ったら問屋さんに返すわけ。
こうやって板を伸ばしながら面倒見てくれる人は今では少ないんだよね。需要があればまた同じ版木で絵を摺ることもあるから、丁寧に扱う人の方が忙しいっていうよ。」



―だから松崎さんは忙しいんですね!松崎さんが個人的に好きな絵はあるんですか?

「今摺っている猫の絵は好きですよ。猫のさみしさが実に出てる絵じゃないですか。これは浅草の、吉原を見た絵なのよ。大鳥神社の、人々が熊手を担いでる姿。それを猫が物憂げに見てる。家主が病気なんじゃないかって説があるんですよ。吉原の、花魁の部屋の窓からの景色。
この絵の猫(見本の絵)は、膨らんで(立体的に)見えるじゃない。今摺ってる作業段階ではまだ平面的に見えるけれど、この膨らみは版木にぎゅっと押し込んで作る。さらに陰になる所は別の板で刷るんだよ。そうすることによって色でも膨らみが表現できる。とにかく摺り屋の仕事って大変なんだよ。

―猫一匹でも何度も版を重ねているのには驚きです。このお仕事を続けて何年になるんですか?
「もう56、7年になりますね。働き始めた当時はまだ敗戦のショックから立ち直りきれていない時、浅草なんかも焼けた土地がたくさんあった。
機械の可動が100%のうち5%くらいだったんじゃないかな、だから、私どもの印刷は忙しかった。機械もないし印刷物は全部手でやって。木に彫刻をして何でも印刷出来たから、需要が多かったんだ。今はゴム版とか、木じゃなくても版があれば摺れてしまうけれども、えらい違いがあるんだよ。木にはかなわない。彫師が居て、摺師が居て、はじめて木のカチッって感じが出せるんだ。」

    





―熟練された技をお持ちの松崎さんも、師匠のもとに弟子入りされていたんですよね?
「そうです。その師匠が去年の11月に亡くなったんですよ、87歳で。あれは残念だったね。師匠は絵描きでね、摺りもやるし絵も描くんだよ。修業の期間は3年間だった。家庭の事情もあって3年で独立しちゃったよ。」


―逆に3年で独立できるものなんですか?
「いやーできなかった(笑)そりゃあ大変だったよ。
3年じゃ紙も裁てないよ。紙だって自分で裁つんだから。」



受け継がれた技術を広めるために博物館や海外で積極的にデモンストレーションを行っているという松崎氏。その姿勢には版画に対する熱い思いと職人の誇りが感じられた。次回は松崎氏が行っているこれらの活動について迫ります。

次回更新をお楽しみに!




松崎啓三郎
(まつざきけいざぶろう)
東京都伝統工芸士
摺師
昭和12年 千葉県生まれ
昭和31年 独立

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